筆をとった次第です(仮)

横浜と上海の往復書簡です。

2023年12月26日:上海 8度

中国雲南省

クリスマスイブの中国雲南省にて

わでぃへ

冬ですね。上海は12月中旬から急に寒くなって、私は長らく風邪っぴきです。今年は始まりから終わりまでコロナやらインフルやらひどい風邪やらにかかってばかりでした。
わでぃも無理して体調を崩さないようお気をつけください。「無理すればできる」というのは、いざという時に使うカードであって、常態化するのはよくないと思いますよ。意識的に無理な仕事を減らせるといいけど、まあ、言うほど簡単ではないですよね。

私も相変わらず気圧に弱いです。「調子が悪いな」と思うと、2〜3時間後に雨が降り出します。そういう時、私は無糖炭酸水を飲みます。というのも、炭酸水にはマグネシウムが入っているんですが、マグネシウムは頭痛を緩和させる効果があるそうです。一度試してみてはどうだろう?

体調っていろんなものから影響を受けますよね。私やわでぃは気圧でいちいちしんどくなるし、私は炭酸水を飲んだらいくらかマシになります。あとはそうだ。私はランチで炭水化物をとるのを控えています。血糖値が上下すると、動悸がして不安を感じやすくなるからです。

私はおそらく生得的に不安を感じやすいタイプのようで、そのせいもあってあまり感情を信頼しすぎないようにしています。比較的多くの人は、ある特定の出来事から喜怒哀楽が生み出されると考えているようですが、個人的にはあくまで特定の出来事は感情を引っ張り出すトリガーでしかないと思うことがあります。感情って、ホルモンバランスだったり、生まれ持った気質、過去の記憶、その時の体調、知識、知能……さまざまな要素が組み合わさって生み出されていますよね。感情は信頼できないし、めんどくさいです。

とくに「怒り」「嫌悪感」「恐怖」というのは本当に厄介だと思っています。その感情を持っているというだけで、まるで自分自身が正しい立場に立っているかのように錯覚してしまいます。そして、そのトリガーになった対象を否定し、排除したくなります。

わでぃの友達は一体なにを恐れ、怒っているんでしょうね。その人が恐れるべき対象は本当にトランスジェンダーなんでしょうか? 

まあ、その人に限らず、他人が怖いというのは仕方がないことなのかな、とも思います。何年も前ですが、東京の地下鉄に乗っていた時に、奇声をあげている男性をみたことがあります。たまにいますよね、そういう人。隣に座っていた女性はものすごく嫌な顔をして、立ち上がって、移動していきました。まあ、賢い判断だと思います。

奇声をあげていた男性は到着した駅で逃げるように降りて行ったのですが、苦しそうな顔をしていました。その時に「ああ、チックだったのか」と、やっと気がつきました。男性はつらそうだったし、隣に座っていた女性は不気味だったんだと思います。逃げた女性はチック症について知らなかったはずです。知らなかった彼女は無知で、悪い人なのでしょうか。

知ることで「許容」できるものは多いですが、そうできないものも多々あります。街で挙動不審な人を見ると、私はどう振る舞うべきかいつも悩みます。あらゆる人が社会から阻害されずに生きていて欲しいですが、自分自身が許容できないほどに、他人は恐ろしく不気味です。一人で生きている以上、守ってくれる人もいないので、危うきには近寄らずです。これは都市の病理だと思っています。

正直、日本の話題に全くついていけていないのですが、最近中国のSNSで「身体男性を女性トイレに入れるな」「女風呂に男を入れるな」みたいなプラカードを掲げる日本の人たちの画像を目にしました。私は、その恐怖心を否定することができないのですが、個人的にはこの話題は今はしたくないと思いました。トランスジェンダーの就業とか、就職とか、婚姻とか、まずはそこからなんじゃないでしょうか。場があたたまる前から、恐怖心や嫌悪感を焚き付けやすい話題を持ってくるのは得策ではありません。

物事は順序よく進めたいし、「恐怖」「嫌悪感」「怒り」そうした感情には特に慎重でいたいです。なかなかできないからこそ。私も自分の中に差別的な考えを見つける時は少なくないですが、せめて落ち着いた環境で、一人になった時には内省的でありたいです。ただ、残念ながら、まったくもって自分の感情を疑ったり内省的になれない人というのは存在するのだと思います。

ある意味、海外にいるととても楽だなと感じます。文化や価値観の圧倒的な違いを知れたことで「そんなものか」と思えるようになりました。わでぃはマルタでいろんな国の人と交流していたと思いますが、ある意味ラクだとは思わなかったですか? 私はもう他人に喧嘩を仕掛けることはないと思います。たぶん。

わでぃは未だに向き合っている様子なので、ちょっと心配しました。自分を内省することのない人、ためらうことができない人と向き合うのは、辟易すると思います。もう諦めてもいいと思うけど、「無駄だから、他人に期待しない方がいい」と私が言ったら無責任すぎるのでしょうか。

ああ、そうだ。ライブにはたまに行っています。テイラー・スウィフトのコンサートは、そりゃもう羨ましい。私は最近だとLAUVのコンサートに行ってきました。うーん。ポジティブなことを言いたいですが、正直楽しめなかったのかも。上海だと録画することがOKなので、ライブのあいだずーっと撮影している人が多すぎて、それ用のスマホも持ってきていたりして、視界の邪魔でした(これって日本人ならではの感覚のようで、内陸部では観劇中に電話している人もいたくらいです)。それと、観客がいっせいにスマホのライトをつけて、振りかざすみたいな演出がありました。あれはちょっと……。そのせいでLAUVがちょっと苦手になりました。

そういう意味では、コンサートでのスマホライトの演出や、色指定のドレスコード、あとはディズニーランドかな。この辺りは私にとって鬼門です。理由もなく嫌悪感を覚えます。大真面目になぜそうなのかと自分に問いかけることもありますが、考えるたびに、その対象を否定し、自分を肯定する論理を構築しようとするだけです。結局は、自分の嫌悪感について理解することは不可能なのかもしれません。試しにディズニーランドに行ってみて、自分が素直にどう感じるかは気になるけど。・・・まあ、わざわざ行かなくてもいいか。

わでぃはディズニーランド、別に苦手ではないですよね。昔、ディズニーシーのチケットをもらったから、興味ないだろうけど行かないか、と誘われた記憶があります。あれに一緒に行ってたら、なにか変わったかも知れません。そういえば、もともとはアイドルにも嫌悪感があったんだけど、わでぃのおかげでそれはちょっと変わりました。いまでは苦手と好きと面白いが同時に共存している感覚です。自分にとってはそれは良いことです。そうだ、最近はXGばかり聞いています。

いろいろ質問があったような気がしますが、今日はこんな感じかな。男と女に分けることについてはなんとなくずっと考えています。

そういえば、クリスマスイブは内陸部に行っていましたが、そこではクリスマスがありませんでした。それに中国だと旧暦でお正月を祝うので、年末はさらっと過ぎ去ります。おかげで一人でも世間から取り残されたような気になりません。わでぃの実家はほんとうに綺麗なところですよね。そこへ向かうローカル鉄道も素敵でした。お正月はとにかくゆっくり休んで、たくさん寝て、たくさん食べて、あの綺麗な景色を楽しめるといいですね。

 

なっちゃん